【入門】Values Coding(価値観コーディング):質的データ分析のコツ


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 本記事では、Values Coding(価値観コーディング)についてわかりやすく解説します。本記事を読むことによって、読者は「Values Coding(価値観コーディング)ってなに?」「どんなふうに使うの?」などといった疑問を解決できます。

Values Coding(価値観コーディング)とは何か?

 Values Coding(価値観コーディング)は、質的研究で使用できるコーディングの主な手法のひとつです[1]。この方法は、データから参加者の価値観、態度、信念を把握し、整理したり、分析したりするために使用します。


 価値観、態度、信念とは以下の通りです[1]。

  • 価値観(Values、V):価値観は、参加者が何を大切にしているかを表すものです。
  • 態度(Attitudes、A):参加者が感じたり、考えたりしていることです。
  • 信念(Beliefs、B):信念は、価値観や態度に加えて、参加者の個人的な見解です。

 Values Codingは、これらの要素を識別し、データをコード化することにより、参加者の世界観や視点を理解するのに役立ちます[2]。

Values Coding(価値観コーディング)の主な特徴

 Values Coding(価値観コーディング)の主な特徴は以下の通りです[1]。

  • 世界観や視点の理解に役立つ:言葉遣い、表現された感情、話された内容などから、参加者の世界観や視点を読み解きます。
  • 動機や主体性、行動の理由の理解に役立つ:なぜやる気になるのか、どのように世界を理解しているのか、なぜそのように行うのかなどの理由を探ります。
  • 思想信条の理解に役立つ:意見、観念、理念などのあり方を探ります。
  • 価値観、態度、信念の相互作用の理解に役立つ:価値観、態度、信念は互いに独立しているように見えますが、実際には深く相互に関連しています。この方法では、相互の関係を検討することで、世界観や視点の全体像の把握に役立ちます。

Values Coding(価値観コーディング)の基本方法

 Values Coding(価値観コーディング)の基本方法は以下の通りです[2]。

  • データを丁寧に読み込む:データを注意深く読みます。この段階では、データの内容を理解し、参加者の言葉や表現のニュアンスに注意を払います。
  • 価値観、態度、信念に関連する部分を特定する:データの中から、価値観(何を大切にしているか)、態度(どのように感じているか、考えているか)、信念(個人的な見解)に関連する部分を見つけます。このプロセスでは、発言や記述の中で明らかになる、これらの要素を特定することが重要です。
  • コードを生成する:価値観、態度、信念に関連する部分に対して、具体的なコードを割り当てます。このコードは、分析のためのカテゴリー化を容易にし、データの構造化を助けます。

Values Coding(価値観コーディング)と分析アプローチ

 Values Coding(価値観コーディング)は、質的研究における多様な分析アプローチで活用できます[1]。以下は、Values Coding(価値観コーディング)が適用可能な分析手法の例です。

  • テーマティック分析(Thematic Analysis):データからパターンを読み解き、テーマを生成する方法です。Values Coding(価値観コーディング)は、参加者の価値観、態度、信念がどのように表れているかを特定し、そのパターンを探るのに役立ちます。
  • 事例研究(Case Study):特定の事例を詳細に検討し、仮説を生成するアプローチです。この分析アプローチでは、個別のケースにおける価値観、態度、信念の動態を理解するためにValues Coding(価値観コーディング)を使用できます。

 これ以外にも様々な分析アプローチでValues Coding(価値観コーディング)を活かすことができます。参加者の世界観や視点の理解に役立ててみましょう。

Values Coding(価値観コーディング)の例

 Values Coding(価値観コーディング)の方法を例示すために、「自律した生活が送りたいです。なので、就労することに前向きな気持ちで取り組んでいます。何とかなるんじゃないかと思っています」というデモデータでコーディングしましょう。このデモデータは、障害をもつ人々が就労を目指す理由を調べるためのインタビューの一部だと仮定します。


 これにValues Coding(価値観コーディング)を行うと以下のようなコードを生成できるかもしれません


価値観(Values, V): 【V:自律生活】

 このコードは、参加者が「自律した生活を送りたい」という願望を表していることを示しています。自律した生活は、その人にとって重要な価値観であり、その行動や決断の基盤となっていることが伺えます。


態度(Attitudes, A): 【A:努力への意欲】

 「就労することに前向きな気持ちで取り組んでいます」という発言は、仕事に対する肯定的な態度を反映しています。この態度は、困難や挑戦にも積極的に取り組む姿勢を示しており、その人の行動や選択に影響を与える可能性があります。


信念(Beliefs, B): 【B:見通しは楽観的である】

 「何とかなるんじゃないかと思っています」という部分からは、楽観的な見通しを持つ信念が読み取れます。この信念は、将来に対するポジティブな考え方を示し、困難や不確実性に直面しても希望を持ち続けることを支えています。


 このようにValues Coding(価値観コーディング)を用いることで、データから参加者の価値観、態度、信念を整理することができます。

Values Coding(価値観コーディング)に関するよくある質問

 Values Coding(価値観コーディング)に関するよくある質問とその回答を以下に示します。


Q:Values Coding(価値観コーディング)の結果はどのように解釈しますか?

A:価値観、態度、信念の相互作用を詳細に検討します。データから明らかになる参加者の世界観や視点を理解し、それらがどのように相互に影響を及ぼしているかを考察します。分析したコードから、参加者の内面的な動機や背景にある要因を解釈し、より広い文脈の中でその意味を探求します。


Q:価値観、態度、信念に振り分けるのが難しいです。どうしたらいいですか?

A:個々の要素が密接に関連しているため、区別するのが難しい場合がよくあります。可能であれば、追加のインタビューを行い、参加者と協力して、価値観、態度、信念をより明確に整理すると良いでしょう。それが困難な場合は、無理にわけるのではなく、価値観、態度、信念を混ぜたコードを生成してもよいでしょう。


Q:その他のコーディングと併用できますか?

A:もちろん、可能です。Values Coding(価値観コーディング)は他のコーディング手法と組み合わせて使用することができます。例えば、インビボコーディング(In Vivo Coding)と併用することで、参加者の言葉やフレーズを抽出し、そこから価値観、態度、信念のコード生成につなげることができます。


 なお、インビボコーディング(In Vivo Coding)については以下の記事で解説しています。興味がある人はぜひお読みください。

まとめ

 Values Coding(価値観コーディング)は、参加者の世界観や視点を包括的に理解する方法です。これは、参加者の価値観(大切にしていること)、態度(感じていることや考えていること)、信念(個人的な見解)を識別し、コード化することを通じて、参加者の内的世界の理解を目指します。この方法は、参加者の言葉や行動の背後にある深い意味を理解し、それに基づいてデータを分析するために役立つツールです。

文献

[1] Saldaña J: The Coding Manual for Qualitative Researchers, Fourth Edition. SAGE Publications Ltd, 2021

[2] 京極真:質的研究のためのコーディング入門ガイド.(校正中)

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