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質的研究において、インタビューデータの文字起こしは非常に重要なプロセスです。文字起こしを通じて、音声データが分析可能なテキストデータに変換されます。しかし、文字起こし作業には多くの課題があり、正確性や一貫性を保つことが難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、効率的かつ高品質な文字起こしを行うためのコツを、初心者にもわかりやすく解説します。文字起こしの準備から、基本的なルール、効率的なテクニック、データの確認と修正、管理と活用、倫理的配慮まで説明します。
この記事を読むことで、質的研究に取り組む初学者が、自信を持って文字起こし作業に取り組めるようになることを目指しています。私自身、研究者として質的研究に携わってきた経験から、文字起こしの重要性と難しさを痛感しています。その経験を活かし、読者の皆様に実践的なアドバイスを提供したいと思います。
文字起こしを始める前に、まず適切な機材を準備することが大切です。高品質な録音機器を使用することで、雑音の少ないクリアな音声データを得ることができます。また、文字起こし作業を効率化するために、専用のソフトウェアを活用することをおすすめします。
音声データの質は文字起こしの精度に直結するため、録音機器選びは慎重に行いましょう。予算に応じて、ノイズキャンセリング機能付きの高性能レコーダーや、スマートフォンの録音アプリなどを選択してください。
インタビュー録音の品質を高めるためには、まず静かな環境を確保することが重要です。カフェなどの雑音が多い場所は避け、防音性の高い部屋を選ぶとよいでしょう。
また、録音機器と参加者との距離や角度にも気を配ります。マイクは参加者が話す声を拾いやすい位置に設置し、音量レベルを適切に調整してください。複数の参加者がいる場合は、それぞれの声が明瞭に録音されるよう、マイクの位置を工夫しましょう。
インタビュー中は、参加者の声だけでなく、自分の相槌や質問も録音されていることを意識してください。あまり大きな声を出したり、マイクに近づきすぎたりすると、音割れを起こす恐れがあります。
文字起こしで最も重要なのは、正確性と一貫性を保つことです。参加者の発言をありのままに記録し、言葉の省略や要約は避けましょう。以前、「文字起こしは面倒だし、略したらいいですよね」といったわりと軽いノリでインタビューの内容を要約した文字起こしを行っている方がいらっしゃいました。そういうのは止めときましょう、ということです。
また、曖昧な表現や聞き取りにくい部分は、「聞き取り不能」などと明記します。たまに、推測で補う方がいらっしゃいますが、それはダメです。聞き取り不能なところは、参加者に直接確認するか、それが無理ならばそのままにしておきましょう。
一貫性を保つためには、文字起こしのルールを予め決めておくことが有効です。例えば、方言の扱い方、語尾の記号の使い方、固有名詞の表記ルールなどを統一しておきましょう。たまに、ルールがその都度変わる方がいますけど、後で理解が難しくなりますので御法度です。
話し言葉をそのまま文字起こしすると、句読点が少なくなりがちです。しかし、読みやすさを考慮し、適切に句読点を打つことが大切です。参加者の意図を汲み取りながら、文の切れ目に句読点を打ちましょう。
段落は、話題が変わった部分で改行します。分析が進むと、1行ごとに改行する場合がありますが、最初からそのようにしておく必要は特にありません。ひとまとまりの発言ごとに段落分けすることで、テキストデータの可読性が向上します。
インタビューでは、言葉だけでなく、沈黙やポーズ、笑い声、ため息など、非言語的な情報も重要な意味を持ちます。これらの情報は、括弧内に簡潔に記述しましょう。例えば、「(5秒間の沈黙)」「(笑)」などと記録します。
また、必要に応じて、インタビュー中に起こった出来事も記述します。例えば、括弧内に(電話の着信音、ノックの音など)のように記述しておくとよいでしょう。
文字起こし作業は根気と集中力が必要な作業です。効率を上げるためには、以下のようなテクニックを活用しましょう。
文字起こしが完了したら、必ず自分自身でデータを見直し、誤字脱字や聞き間違いがないかチェックしましょう。読み上げ機能を使って音声を聞きながら確認すると、ミスが見つけやすくなります。
さらに、第三者にもデータを確認してもらうことをおすすめします。自分では気づきにくい誤りを指摘してもらえる可能性があります。可能であれば、参加者本人にもデータを確認してもらい、内容の正確性を担保しましょう。
文字起こしデータは、研究の貴重な資産です。適切に管理し、有効活用することが求められます。
まず、データファイルには、参加者IDやインタビュー日時などを含む、わかりやすいファイル名をつけましょう。例えば、「participant01_20230101.txt」などです。
また、データは複数の場所に保存し、定期的にバックアップを取ることが重要です。クラウドストレージやUSBメモリなどを活用し、万が一の事態に備えましょう。
文字起こしデータは、そのままでも貴重なデータですが、質的データ分析ソフトを使うことで、さらに深い分析が可能になります。インタビューデータをソフトに取り込み、コーディングや概念化を行うことで、新たな知見が得られるかもしれません。
文字起こし作業では、倫理的な配慮も欠かせません。インタビューデータには個人情報が多く含まれるため、データの機密性を守ることが重要です。データファイルはパスワードを設定し、安全な場所に保管しましょう。
また、インタビュー参加者のプライバシーを守るため、文字起こしの際は個人が特定できる情報(氏名、所属など)を匿名化することが求められます。
インタビュー実施前には、参加者に研究の目的と方法、データの取り扱いについて説明し、同意を得ておく必要があります(インフォームド・コンセント)。文字起こしを外部に委託する場合は、委託先にも同様の倫理的配慮を求めましょう。
本記事では、インタビューデータの文字起こしについて、準備から管理・活用まで、一連の流れを丁寧に解説しました。ポイントをまとめると以下のようになります。
文字起こし作業は地道で時間のかかる作業ですが、丁寧に取り組むことで、質的研究の質を大きく左右する重要なプロセスです。本記事を参考に、正確で豊かなインタビューデータを作成していただければ幸いです。
京極真、博士(作業療法学)、作業療法士。
Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授(役職:保健科学研究科長、人間科学部長、他)。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程修了。研究関連の著書に『セラピストのための研究論文書き方ガイド』(三輪書店)、『作業で創るエビデンス』(医学書院)、『質的研究で使えるコーディング入門ガイド』(Thriver Books)がある。その他、著書、研究論文多数あり。
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