レビューマトリックスを使った先行研究のまとめ方:実践ガイド


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レビューマトリックスを使った先行研究のまとめ方:実践ガイド

 研究論文や研究計画書などを執筆する際、先行研究の整理は重要なステップです。多くの文献に触れつつ、その全体像や研究の傾向、今後の課題を把握する必要があります。しかし、「たくさん読んだはずなのに、どの論文がどんな内容だったかごちゃごちゃしてきた……」という経験はありませんか?


 そこでおすすめなのが「レビューマトリックス(Review Matrix)」の活用です。レビューマトリクスを使うと、論文の内容や関連性を視覚的かつ体系的に把握しやすくなります。本記事では、レビューマトリックスの作り方と活用方法を解説します。

レビューマトリックスとは

 レビューマトリクスとは、先行研究の要点を行と列を使った「表(マトリクス)」で整理したものです。

  • 行(Row):個別の研究や文献
  • 列(Column):研究の重要情報(著者名、目的、対象、手法、主要な発見、限界など)

 この形式で各研究の情報を俯瞰できるように整理すると、「どの研究がどの論点を扱っているか」「どの手法がどの結果に繋がったか」などを比較しやすくなり、レビュー全体の質を高めることができます。

レビューマトリックスを使うメリット

1.比較検討が容易になる


 同じ列を横断的に見ることで、「どの論文がどんな問題設定や方法論を採用しているか」がひと目で比較できます。各研究を頭の中で並べ替える手間が省け、整理しやすくなります。


2.レビューの見落としを減らす


 どの論点にどの研究が触れているかを行・列の対応関係でチェックできるため、抜け漏れを防ぎやすくなります。


3.文章構成に役立つ


 レビューマトリクスから類似点や相違点を見つけることで、文献レビューの構成案(セクション分けや論の展開)が作りやすくなります。


4.リサーチギャップや課題を発見しやすい


 何が研究されていないのか(空白領域)はどこか、同一テーマでも視点や方法が異なるとどう結論が異なるのかなどが明確に把握しやすくなります。

レビューマトリックスの作り方

ステップ1:文献の検索と選定

 まずは研究テーマに関連する文献を網羅的に探します。

  • データベースの活用:Google Scholar、CiNii、PubMed、Scopusなどを利用
  • キーワード設定:研究テーマに沿った適切なキーワードを設定し、検索漏れを防ぐ
  • 絞り込み:タイトルやアブストラクトを読んで、明らかに対象外の論文を外す

 ここで「必要そうだ」と思った文献は、過不足がないように一通り集めておきましょう。

ステップ2:レビューマトリックスの設計

 どの列を設定するか、あらかじめ決めておきます。目的に応じて列をカスタマイズしましょう。一般的に設定することが多い列の例は以下の通りです。

  • 著者名・発表年
  • 研究の目的・研究課題
  • 対象(サンプル/参加者)
  • 理論的枠組み or 背景
  • 研究方法(質的/量的/混合など)
  • 主要な結果・結論
  • 研究上の示唆・意義
  • 限界・課題
  • キーワード・特記事項

 研究テーマや分野によっては「使用した分析ツール」「測定スケール」「研究の国・地域」などの列も追加するなど、適宜カスタマイズしてください。

ステップ3:表を作成する

 スプレッドシートやExcelなど、行と列が編集しやすいツールを使うのが一般的です。例えば、A列に「著者名/発表年」、B列に「研究目的」、C列に「研究方法」…という形であらかじめ見出しを入れておき、1行に1文献ずつ整理します。共同研究の場合は、Googleスプレッドシートを使うと共同編集が容易なのでおすすめです。

ステップ4:文献の情報を読み取りながら入力する

 論文を読む順序として、先にアブストラクトや結論、研究方法の概要に目を通して、必要そうな情報をキャッチするとよいです。そして、必要があれば本文を深く読みましょう。


 次に、ポイントを抜き出します。事前に決めた列に当てはめる形で情報を入力していきます。まとめる際は「何が新しいポイントか」「研究の主張は何か」を簡潔に記述するとよいです。


 この際、コピペしすぎに注意です。文章をそのままコピーするよりも、自分の言葉で要約することで内容理解が深まります。

ステップ5:マトリックス俯瞰して比較・分析する

 全ての文献情報を入力し終えたら、俯瞰して比較してみましょう。

  • 類似点はどこにあるか:研究目的や方法論が似ている文献はどれか?
  • 相違点はどこにあるか:同じテーマでも結論が異なるのはなぜか?
  • 空白領域(リサーチギャップ)はどこにあるか:あまり扱われていない視点・理論・対象はどこか?

 レビューを書き進める際は、この俯瞰結果を土台にして「〇〇に関する研究は多い一方、△△に関する研究は少ない」といった指摘を行います。

レビューマトリックスを活用した文献レビューの書き方

 レビューマトリックスが完成したら、そこから実際にレビュー本文を組み立てます。


1. テーマや方法論ごとのグルーピング


 まず、文献を「研究目的」「方法論」「理論的枠組み」などの共通点に基づいて分類します。例えば、「Aグループ(実験研究)」や「Bグループ(調査研究)」のように大きなカテゴリーを設定し、それぞれの共通点や相違点について論じます。


2. 重要な概念やキーワードの定義を明確化


 研究分野内でキーワードに異なる定義がある場合、文献を比較しながらその違いを示します。例えば、「A論文では〇〇と定義されているが、B論文では××と定義されている」といった形で、比較・対比を具体的に記述します。


3. 矛盾点や議論の分かれるポイントの指摘


 同じ研究テーマであっても、論文によって結果が異なる場合、その原因を探ります。例えば、手法や対象の違いが結果に影響している可能性について考察します。


4. 既存研究の限界と今後の課題を整理


 レビューマトリクスで確認した「限界」や「課題」の項目をまとめ、分野全体の問題点や追加で必要とされる研究について提示します。


5. リサーチギャップの提示と自身の研究との関連付け


 分析を通じて明らかになったギャップを指摘します。例えば、「〇〇の要素が十分に検討されていない」や「サンプルの多様性が不足している」といった点です。そして、自身の研究がそのギャップにどのように貢献するかを具体的に述べます。


 これらのプロセスを通じて、体系的かつ説得力のあるレビュー本文を作成することができます。

作成・運用時のコツと注意点

1. カラム(列)の設定は必要最低限にする


 最初から列を増やしすぎると、入力作業が煩雑になり、管理が複雑化します。そのため、初めは必要最低限の列に絞り、必要に応じて追加する形で進めるのが賢明です。


2. 共有しやすいツールを選ぶ


 使用するツールは、プロジェクトの規模や共有相手に応じて選びましょう。個人で使用する場合はExcelやスプレッドシートで十分ですが、大人数のプロジェクトではGoogle Workspace、Notion、Airtableなどのオンライン共有ツールを活用するのがおすすめです。これらのツールはチームで同時編集やコメントが可能なため、効率的な共同作業が実現します。


3. 文献数が多い場合はカテゴリごとにマトリックスを分ける


 文献が何十件、何百件と膨大になる場合は、「テーマA用」「テーマB用」「理論枠組み用」など、カテゴリごとにマトリックスを分割すると管理しやすくなります。この方法により、それぞれのテーマに集中して作業を進めることができます。


4. 定期的な見直しを行う


 レビューは一度作成して終わりではありません。研究が進むにつれて新しい文献が増えたり、解釈が変わったりすることがあります。そのため、新たな文献を見つけた際には逐次マトリクスに追記し、古くなった情報は適宜更新しましょう。


5. 必要に応じてハイライト機能を活用する


 Excelのセルの色分けや条件付き書式を使うことで、重要な研究や類似研究を目立たせることができます。一目でキーとなる文献がわかるように工夫すると、管理がさらに効率的になります。


 これらの方法を取り入れることで、文献管理の負担を軽減しつつ、効果的なレビュー作成が可能になります。

まとめ

 レビューマトリックスを活用すると、先行研究の整理からレビュー執筆までがスムーズになります。文献数が増えても体系的に把握でき、研究の流れや論点の把握が容易になるのが最大の利点です。

  • 必要な文献を探し出し、Excelやスプレッドシートでまとめる。
  • 各文献の目的・手法・結果・限界などをコンパクトに記載する。
  • 俯瞰して比較・分析し、レビューや研究計画の土台にする。

 先行研究を整理した結果、自分の研究が位置づけられるポイントや、研究の新規性が明確になるはずです。ぜひ、この手法を取り入れて、質の高い文献レビューを効率的に進めてください。

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