【解説】質的データ分析と量的データ分析の特徴


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質的データ分析と量的データ分析の特徴

 本記事では、質的データ分析と量的データ分析の特徴を簡潔に解説します。あなたは、この短い記事を読むだけで、質的データ分析と量的データ分析の特徴についてさくっと理解できます。ぜひ最後までお読みください。


 なお、これらの分析結果を報告するためには、パラグラフ・ライティングの習得が必要です。それについては、以下の記事で解説しましたので、あわせてご覧ください。

質的データ分析の特徴

 質的データ分析(qualitative data analysis)は、リサーチギャップを埋める知見を得るために、インタビュー、観察、テキスト、画像、映像、音声などの質的データ(数量化されていないデータ)を分析するために用いられる分析手法です。質的データ分析は、質的研究や混合研究で得られた質的データの意味を理解するための方法です。この方法を用いることで、研究者は参加者の経験、意見、態度、価値などの世界観についてより深く理解することができます。


 質的データ分析は、インタビュー、観察、フォーカスグループ、エスノグラフィー、その他の方法で収集した質的データからはじまります。そして、研究者はこの質的データを分析することによって意味のある結論を導き出すことができます。具体的なやり方は内容分析、テーマティック分析、グラウンデッド・セオリー・アプローチなどさまざまなものがあります。


 多くの場合、質的データはコーディングによって分析されます。コーディングでは、データを整理し、意味のあるラベル付けを行います。質的データは複雑かつ多様でしかも雑多なものですので、それを整理整頓できるコーディングは研究者が質的データの意味を理解するうえで非常に役立ちます。


 質的データのコーディングは大きく3つのステップからなります。


 最初のステップは、質的データに精通することです。これには、例えば、質的研究で収集したインタビュー記録を読む、音声を聞く、動画を見ること、などが含まれます。このステップでは、研究者がデータについて詳しく知っている状態を目指します。研究者が質的データに精通すれば、さらなる分析の基礎を確立することができるため、リサーチギャップを埋める知見の特定に一歩近づくことができます。


 次のステップは、コーディングそのものです。研究者は質的データからコードを作成(帰納的アプローチ)して割り当てたり、前もって用意したコードに分類(演繹的アプローチ)したりします。また、その両者を組み合わせることもあります(ハイブリッドアプローチ)。これには、コードがデータを反映しているかを見直したり、重複するコードを統廃合したりすることが含まれます。いずれにしても、研究目的に関連するすべての質的データをカバーするようにして行います。


 最後のステップは、コーディングした内容の分析です。これは、コードの見直しの他に、コード間の関係の検討、コード間のパターンの探索を含みます。また、カテゴリーやテーマを特定していくこともあります(両者の区別は必ずしも明確ではない)。また、この段階で新しいコードが浮かび上がることがあり、その場合はデータと突き合わせながらコードの修正を行います。最終的に、リサーチギャップを埋めるためにカテゴリーやテーマを使ったモデル図を作成することもあります。


 質的データ分析は複雑で時間のかかる作業ですが、深い洞察によって貴重な知見をもたらすことができます。コーディングは、質的データ分析のための強力なツールです。これは、研究者が大量のデータを整理したうえで、その意味を深く理解することを可能にします。質的なコーディングは時間がかかりますが、質的研究において必要なステップです。

量的データ分析の特徴

 量的データ分析は、リサーチギャップを埋める知見を得るために、さまざまなやり方で収集した量的データを分析するために用いられる手法です。量的データは、離散データと連続データの2つに大別できます。離散データは、年齢、性別、コインの裏表などのようなカウントすることができるデータです。連続データは、体温、身長、体重などの測定することができるデータです。量的データ分析は、量的データの傾向、関係、パターンとその強度を示するために使用されます。量的データ分析は量的データから知見を見いだすためのパワフルなツールであり、作業療法を含むさまざまな分野で活用されています。


 量的データ分析の目的は、量的データから重要な傾向や関係を特定ししたり、その結果に基づいて解釈や予測を行うことです。量的データ分析は、量的データのより深い理解を提供します。この分析は、実態を把握したり、変数間の関係を検証したり、効果を証明したり、新しいツールを開発したりすることに役立たせることができます。


 量的データ分析は大きく3つのステップからなります。


 最初のステップは、データ整理です。データ収集が完了したら、データをクリーニングし、分析を進めるための準備を行います。例えば、Excelシートに入力された量的データを確認し、欠損値の処理やその他の外れ値などのエラーに対処します。また、量的データを統計解析ソフトに読み込めるかたちに変換し、実際にできるかどうかを検証することも含まれます。


 データ準備が完了したら、次はデータ探索を行います。データ探索は、量的データの特徴を理解するために、量的データの分布を確認したり、散布図、折れ線グラフ、ヒストグラム、ヒートマップなどのグラフィカルな手法で可視化することが含まれます。また、記述統計を使い、量的データの特徴を要約し、記述することも行います。記述統計では平均値、中央値、最頻値、標準偏差、四分位範囲などの代表値を求め、量的データの概観を把握していきます。


 最後のステップは、データに対して統計分析を行うことです。ここでいう統計分析は推測統計です。推測統計析は、サンプルを手がかりに母集団分布のパラメータを推測するために使用します。これには、t検定、分散分析、相関分析、回帰分析、構造方程式モデル、ベイズ統計などの推測統計が使用できます。推測統計は、仮説を検証したり、データに対するモデルが当てはまる程度を調べたり、解釈や予測を行ったりするために使用することができます。


 量的データ分析は、統計解析を活用することによって、量的データの特徴をよりよく理解し、変数間の関係に関する洞察を得るために使えるパワフルなツールです。またこれは、変数間の関係の強さを調べたり、ある変数が別の変数に与える影響を明らかにしたり、仮説を評価したりするために使用できます。

質的データ分析と量的データ分析の関係

 質的データ分析と量的データ分析は相補関係にあります。質的データ分析は、質的データの根底にある意味を洞察するために、質的データ内に存在するテーマやパターンを明らかにします。他方、量的データ分析は、量的データで仮説を検証したり、予測したりするために、変数間の関係性を明らかにしたり、関係の強さを調べたりします。質的データ分析と量的データ分析では明らかにできることが違うため、研究結果を十全に理解するために両者の組み合わせが必要になる場合があります。研究者はそれぞれの主な違いを理解したうえで上手に活用する必要があるのです。


 質的データ分析と量的データ分析の主な違いは、あつかうデータの種類や得られる結果にあります。量的データは数値的なものであり、記述統計や推測統計で分析することができます。しかし、質的データは非数値的なものであり、テーマティック分析やグラウンデッド・セオリー・アプローチなで分析することができます。質的データ分析も、量的データ分析も、データを分析するという点で同じですが、明らかにできることが違っています。質的データ分析は、量的データと量的データ分析では明らかにできない、データの根底にあるテーマやパターンから意味を深く理解することができます。他方、量的データ分析は、質的データと質的データ分析では明らかにできない、変数間の関係を数値で示したり、ある変数が他の変数を予測する程度を明らかにしたりすることができます。


 このように、質的データ分析と量的データ分析は、データ分析という点では同型ですが、あつかうデータや得られる結果に違いがあるため、研究結果の十分な理解のためにともに活用していく必要があるものなのです。質的データ分析と量的データ分析の特徴を理解したうえで、必要に応じて両データ分析を併用していけるようになりましょう。

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著者紹介

京極真、博士(作業療法学)、作業療法士。

Thriver Project代表。吉備国際大学ならびに同大学大学院・教授。作業療法学科長、保健科学研究科長、(通信制)保健科学研究科長。首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程修了。2022年から2023年にかけて、全12回からなる連載『基礎から始める研究論文の書き方講座』(三輪書店)を執筆した。また『作業で創るエビデンス』(医学書院)の編著者のひとりであり、質的研究、理論研究、観察研究、尺度開発、統計を執筆した。その他、著書、研究論文多数あり。

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