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【お詫びと訂正】[更新: 2024年8月11日]
本記事では当初、「reflexive」の日本語表記を「リフレクティブ」としていましたが、正しい表記である「リフレクシブ」に修正いたしました。読者の皆様にご迷惑をおかけしたことを心からお詫び申し上げます。
質的研究の世界は、広大で複雑であり、可能性に満ちています。人間の経験、行動、感情の奥深くに分け入るとき、この豊富な情報を理解する方法を見つけることが不可欠となります。そのような手法の1つとして、テーマティック分析が広く活用されています。この強力な手法により、研究者は質的データからパターンやテーマを特定し、分析し、報告することができます。この記事では、テーマティック分析とその主な種類であるコーディング信頼性アプローチ(Coding Reliability Approach)、再帰的テーマティック分析(Reflexive Thematic Analysis、リフレクシブ・テーマティック分析)、コードブックアプローチ(Codebook Approach)について焦点を当てます。
[編集: 2024年8月11日 - 「リフレクティブ」を「リフレクシブ」に修正しました]
テーマティック分析(テーマティックアナリシス法)は、社会、行動、臨床、健康、教育など、さまざまな分野・領域の質的データを分析するために広く用いられている手法です。テーマティック分析の主な目的は、特定の研究課題に対応する意味のパターンであるテーマをデータセット内で特定することです。これらのパターンは、データの熟知、データのコーディング、テーマの開発と修正という綿密なプロセスを通じて生み出されます。
コーディングとは、データの特定のセグメントに割り当てられたラベルであるコードを割り当てることです。コードは、データを整理し、パターンの特定を容易にするのに役立ちます。分析が進むにつれて、同じような意味を持つコードがグループ化され、テーマが形成されます。テーマとは、さまざまなコードを包含し、データの包括的な理解を提供する、より広い概念です。テーマがさらにサブテーマに分けられることもありますが、これはメインテーマよりも小さく、より具体的な側面となります。
分析プロセスは、研究者がデータを徹底的に読み込み、コードを割り当て、それらをテーマとサブテーマに組織化することで進行します。このプロセスは繰り返し行われることが一般的で、研究者は新たな洞察が得られるまで、コードやテーマの修正を続けます。この繰り返しは、研究者がデータに対する理解を深め、分析の質を向上させることに繋がります。
テーマティック分析は汎用性の高い、利用しやすい手法であり、多くの研究者にとって魅力的な選択肢となります。ただし、テーマティック分析は単一の手法ではなく、質的データを分析するための様々なアプローチを包括する用語として機能することを認識する必要があります。主な種類として、Braun & Clarke (2021)によると、コーディング信頼性アプローチ、再帰的テーマティック分析、コードブックアプローチなどがあります。これらのアプローチは、質的データからテーマや意味のパターンを特定することに重点を置いていることは共通していますが、テーマ開発のための基本的な哲学や手順が異なっています。
まとめると、テーマティック分析は、データセット内の意味のパターンであるテーマを特定することに焦点を当てた、質的データを分析するための一般的な方法です。この手法は汎用性が高く、様々な文脈や領域で適用することができます。
テーマティック分析には、コーディング信頼性アプローチ、再帰的テーマティック分析、コードブックアプローチなどのいくつかの種類があります。それぞれの手法には特徴があり、目的に応じて使い分けることができます。研究者は、研究の目的、哲学的な立場、実用的な制限を考慮した上で、自分の調査に最も適したアプローチを選択する必要があります。以下では、Braun & Clarke (2021)を参考にそれらの要点を解説しますが、詳しくは原著に当たってください。
コーディング信頼性アプローチは、正確さと信頼性を重視するテーマティック分析です。その方法として、コードブックを使います。このコードブックとは、実際のデータにどのようなラベル(これをコードと呼びます)を付けるべきか、そのルールや例をまとめたものです。複数の研究者(コーダーと呼ばれます)が同じデータを見ても、このコードブックを参考にすることで、似たようなラベルを付けられるようになります。
さて、それぞれの研究者が独立してデータにラベルを付けた後は、そのラベル付けがどの程度一致しているか、つまり信頼性を確認します。これを数値化したものが「信頼性スコア」で、このスコアが高ければ高いほど、ラベル付けが一致し、その結果信頼できるとされます。このスコアを算出するためには、統計学の一つ、CohenのKappaという手法を用います。このスコアが0.80以上なら、一致度が高いと判断されます。
このアプローチの良い点は、客観性と再現性が高いこと。つまり、他の人が同じ研究を行っても同じ結果が得られやすいということです。また、ラベル付けの基準や結果が明確になるため、研究結果を他の人に伝えやすいという利点もあります。
ただし、このアプローチにも限界があります。なぜなら、質的研究のデータは主観的で多角的な側面を持つことが多いからです。つまり、それぞれの研究者が持つ視点や解釈が違うため、全員が全く同じラベルを付けるというのは現実的ではありません。それどころか、それぞれが違った視点でラベルを付けることで、新たな発見があるかもしれません。この視点の違いは、ラベル付けの「正確さ」や「信頼性」を必ずしも高めるわけではありませんが、それはそれで大切なことです。また、このアプローチはデータの豊かさや複雑さを捉えきれない場合があり、コードブックの作成や信頼性スコアの計算には時間と労力が必要となります。
なので、コーディング信頼性アプローチはあくまで一つの手法であり、データの性質や目的に応じて適切な分析手法を選ぶことが大切です。たとえば、次に紹介する再帰的テーマティック分析は、解釈的アプローチにより、質的データの奥深さをより捉えることが可能です。
再帰的テーマティック分析テーマティック分析は、研究に使うことができる多機能な手法です。その魅力は、その適応性にあります。つまり、いろいろな理論の枠組みや研究の問いに対して使うことが可能で、研究者が自由に使い方を選べる点です。例えば、人々の感情や社会のルールを研究するために、または特定の状況でどのように意味が作り出されるかを理解するために使うことができます。
再帰的テーマティック分析では、さまざまな方法でデータを分析します。これはデータに対するアクセスや分析の方法によって異なります。具体的には、「帰納的」な方法でデータからコードやテーマを抽出したり、「演繹的」な方法で既存の概念に基づいてテーマを作ったりします。「意味論的」な方法ではデータの明確な内容に注目し、「潜在的」な方法ではデータの背後にある概念を探ります。「現実主義的」な方法では、データが反映する客観的な現実を報告し、「構築主義的」な方法では、データが作り出す主観的な現実を探求します。これらの方法は固定的ではなく、研究者が自分のニーズに合わせて選べます。ただし、選んだ方法が理論的に一貫していること、つまり一つの研究の中で一貫した手法を使用していることが重要です。
この手法では、データのコーディングも大切な部分です。コーディングとは、データにラベルをつけて分類することです。再帰的テーマティック分析では、コーディングは研究者の視点や目的を反映する動的で反射的なプロセスであり、一つの「正しい」方法があるわけではありません。研究者が分析の根拠や意図を明確にすることが重要です。また、通常のコーディングでは「コーダー間の信頼性」(2人の研究者が同じ方法でデータをコーディングすること)が重視されますが、リフレクシブ・テーマティック分析ではこれがあまり重視されません。それは、信頼性を追求するあまりコードが単純化されてしまい、分析の深みや豊かさが損なわれる可能性があるからです。
さらに、再帰的テーマティック分析は、テーマの作り方でも他の手法と違います。テーマとは、データに共通するパターンやトピックのことを指します。一部の分析手法では、テーマはあらかじめ設定され、データからそのテーマに関連する情報を見つけ出します。しかし、再帰的テーマティック分析では、テーマは分析の結果として生まれます。つまり、研究者がデータと積極的に関わり、コードから自然にテーマを作り出します。データの中に既にテーマが存在していると考えるのではなく、研究者がテーマを作り出す役割を果たすという考え方です。
要するに、再帰的テーマティック分析は、質的なデータを分析するための多目的で適応可能な手法であり、様々なアプローチを提供します。この方法は、研究者が分析に与える影響を認識し、テーマをデータの中にすでに存在するカテゴリーではなく、分析の結果として認識します。
コードブック・アプローチは、情報を整理し分析するための一つの方法です。この方法では、あらかじめ定義したコード(あるいはカテゴリ)を使って、データを分類したり整理したりします。このコードの一覧がコードブックと呼ばれるもので、このコードブックに基づいてデータの分析を行うのです。
イメージとしては、あなたが図書館の司書で、大量の本を整理する必要があるとしましょう。そこで、あらかじめ「小説」「科学」「歴史」などのカテゴリを作り、それぞれの本をこれらのカテゴリに分類します。これがデータをコード化する、すなわち分類する作業と似ています。このカテゴリの一覧がコードブックに相当します。
しかし、コードブック・アプローチの特徴は、ただ単にデータを分類するだけではなく、そのデータの背後にある意味も探求する点にあります。つまり、ただ本をカテゴリに分類するだけでなく、その本が何を伝えているのか、どのような意図があるのかを理解しようとするのです。
この手法の強みは、特に複数人でデータの分析を行う場合や、一定の期間内でデータ分析を終える必要がある場合などに威力を発揮します。チーム全体が一つのコードブックを共有することで、全員が同じ基準でデータを分析することが可能となり、効率的な分析が可能となるのです。
一方、この手法の欠点としては、コードブックに固執しすぎると、新たな視点や意味を見落としてしまう可能性があります。例えば、新しいジャンルの本が出てきた場合、既存のカテゴリに当てはめることができないかもしれません。また、コードブックを作る前には、ある程度のデータ理解が必要ですが、その過程で先入観や偏見が生じる可能性もあります。
以上のように、コードブック・アプローチは、コードブックに基づいてデータを整理し分析する効率的な方法ですが、新たな発見を阻害する可能性もあることを理解しておく必要があります。これは研究やデータ分析の一つの道具であり、状況や目的に応じて最適な手法を選ぶことが重要です。
テーマティック分析は、質的データを理解するための有用な手法です。研究者はこれを使って、データから重要な意味や洞察を引き出すテーマを見つけられます。コーディング信頼性アプローチ、再帰的テーマティック分析、コードブックアプローチなどいくつかの種類があるので、自分のテーマにあった方法を選択するとよいでしょう。
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