記事内にプロモーションを含む場合があります
本記事では次の疑問にお答えします:「質的データ分析を行っていたらコードが増えすぎてしまった。収拾がつかない。どうしたらいいのだろう?何か対策はあるならば知りたいです」
【この記事で学べること】
【著者の経験値】
なお、コードって何?コーディングってどうやるの?という疑問をもっている人は、以下の記事をご覧になってください。
質的データ分析は、データから意味やパターンを抽出するプロセスです。この過程で、研究者はデータをコーディングすることで、情報をより取り扱いやすく、整理されたかたちにすることができます。コーディングとは、質的データの本質的な意味を捉えるためにラベルを貼ることです。コーディングは30種類以上あって、グラウンデッド・セオリーやテーマティック分析などの分析アプローチと組み合わせて使用します。コーディングは質的データ分析のすべてではありませんが、よく使用される方法です。
コーディングは、データのニュアンスを細かく捉えようとすると細かいコードが生成されます。他方、データのニュアンスを大きく把握しようとすると大まかなコードが生成されます。コーディングはデータのうち目的にかかるところにコードを割り当てればよいのですが、1行ずつコーディングするよう助言する専門書が少なくないですから、初心者は実直に行うとするあまりデータの各部分に過度に細かいコードを割り当てがちです。それはデータのニュアンスを細部にわたって捉える可能性を開きますが、初心者は結果的にコードの数が増えすぎてしまい、分析の進行が難しくなる事態に陥ります。
豊かなデータの場合、その傾向は顕著になります。例えば、何時間もあるインタビューデータに対して、1行ずつの徹底したコーディングを行ったところ、コード数が数百に達することがあります。そうなると、どのコードが重要なのかがわからなくなってしまいます。また、データのニュアンスを理解しようとするあまり、再利用できるコードがあまりないことがあります。その場合、せっかくコードを生成しても、データの傾向をつかめなくなってしまいます。データが豊かになればなるほど、時に非常に膨大な量のコードに対応しきれず、結果として意味のある知見の生成が制約されるリスクが増します。
この問題への対策としては、以下のようなやり方があります[1]。なお、質的データ分析のコードが増えすぎ問題に対応するために、質的データ分析のためのソフトを使用することは役立ちます。質的データ分析のソフトについては以下の記事で紹介していますので参考にしてください。
まず最初に、データの全体像をつかむことが重要です。データの全体的な特徴がよくわからないまま、1行ずつコーディングしはじめると、方向性を見失うリスクが高まります。具体的には、データの主要なテーマやトピックが何であるか、どのような情報が含まれているのかを把握することが求められます。
データの全体像をつかむためには、初めにデータをざっと読み通す時間を設けることが効果的です。この段階では、詳細なコーディングを行うのではなく、データの内容を大まかにコーディングすることを目的とします。このようなコーディングでは、ホリスティック・コーディングやストラクチャル・コーディングを使用します。このプロセスを通じて、データが持つ基本的なストーリーや流れ、さらには研究者自身の関心や注目点が明確になります。
また、初回の読み通しを終えた後には、自分の印象や感じたこと、疑問点などをメモとして残すと良いでしょう。これにより、後のコーディング作業時にリファレンスとして役立てることができます。
データの全体像をしっかりと掴むことは、質的研究におけるコーディングの基盤となるステップです。これを基にすることで、データの過剰な増殖を抑えつつ、効果的かつ効率的な分析を進めることができます。
次に、すべてのデータをコーディングするのではなく、その中でも特に重要な部分だけを対象とすることが鍵です。なぜなら、フィールドで収集したデータすべてが、必ずしも研究の中心的なテーマや疑問に直接関連するわけではないからです。無関係なデータを過度にコーディングすることは、分析の焦点を散らすだけでなく、無駄な時間と労力を浪費するリスクも高まります。
したがって、最初の段階でデータの選別と優先順位を明確にすることが求められます。具体的には、研究目的やリサーチクエスチョンに基づいて、データの中から中心となる部分やキーポイントを特定していきます。この過程で、初めにデータの全体像をつかんでおくことの重要性が再び強調されます。全体像を理解していれば、どの情報が重要で、どの情報を優先してコード化すべきかの判断が容易になります。
また、データの選別というプロセスは、研究者の主観が大きく影響する部分でもあります。そのため、選別の基準や理由を明確に記録しておくことも必要です。これにより、分析の透明性や再現性が保たれるだけでなく、後の段階での解釈や議論を進める際の根拠としても役立ちます。
このようなアプローチを取ることで、データ分析の効率を高めるだけでなく、結果として得られる洞察や知見の質も向上します。コード化の過程は緻密な注意力と慎重な判断が求められる作業ですが、それに見合う価値ある結果をもたらすことができるのです。
また、データをコーディングする際の視点として、データを極端に細分化するのではなく、より広い視野でデータの本質を捉えることが重要です。過度に細かいコードは、データの全体像を見失う原因となる可能性があるため、その詳細度とその重要性を常に意識する必要があります。
詳細なコーディングはデータのニュアンスを把握しやすくしますが、それも程度問題です。あまりにも詳細すぎると、全体像との関連がわからなくなって収拾がつかなくなるからです。コーディングする際には、そのコードがデータの理解にどれだけ貢献しているかを考慮すべきです。コードがデータの理解の妨げになっていると感じない程度にコーディングする必要があります。
そして、コーディングの過程を進める中で、新たな洞察や発見がある場合は、柔軟にコードのの再構築や調整を行うことも大切です。コーディングのプロセスは、データとの対話のようなものです。研究者自身がデータとの関わりの中で学び、理解を深めていく過程で、コードの質も向上します。それによって、極端に細分化することなく、データの本質的な意味や特徴を捉えられるようになります。
最後に、定期的に自らのコーディングを振り返り、その妥当性や効果性を評価することも忘れずに行うべきです。この反省のプロセスを通じて、より精緻で効果的なコーディングが可能となり、質的研究の質を高めることができるでしょう。
効果的なコーディングのヒントとして、コードの繰り返し使用も重要です。このアプローチの背後には、データの中で現れるパターンやトレンドを明確に捉えるための考え方があります。コードの再利用を活用することで、同じテーマやトピックを異なるデータセットで共通して扱うことができるのです。
またこれにより、研究の中で特定のテーマやトピックがどれだけ頻繁に現れるか、それがどのような文脈で出現するかを詳細に把握することができます。さらに、コードの繰り返し使用は、研究者の主観や先入観による解釈のバイアスを低減させる役割も果たします。同じコードを一貫して適用することで、データの客観的な分析が可能となり、研究の信頼性を向上させることが期待できます。
しかし、コードの再利用を過度に行うと、データの多様性やニュアンスを見逃してしまうリスクもあるため、注意が必要です。そのため、コードの再利用を行う際には、その都度データの内容を慎重に確認し、該当するコードが本当に適切かどうかを判断することが重要です。
また、コーディングの過程で新しい洞察や発見があった場合、既存のコードを微調整するか、新しいコードを追加することも考慮するべきです。データとの対話を継続的に行いながら、柔軟にコーディングのアプローチを調整していくことで、より深い理解と洞察を得ることができるでしょう。
データのコーディングとカテゴリー化は、分析の進行中にも継続的に行われるべきです。それにより、コードの整理ができるからです。コードを整理する作業は、コーディングの質を向上させ、結果として、より明確で簡潔なコードを導くのに役立ちます。
カテゴリ化しつつコーディングを行うと、最初のコードが修正されることがあります。コードのパターンや傾向を見つけようと努力しているうちに、よりデータに適したラベルを見いだすことができる場合があるからです。カテゴリ化の作業がコードの洗練につながるわけです。
ただし、カテゴリ化を行ったときに、どのカテゴリーにも属さないコードが見つかる場合がありますが、それは無理にまとめる必要はありません。そうしたコードは重要な視点につながることがあるからです。なので、無理やり一緒くたにしないようにしましょう。
質的データ分析におけるコードの増殖は多くの研究者が直面する課題です。この問題の背後には、データの全体像をしっかりと捉えきれていないことや、細かすぎるコーディングの試みが挙げられます。しかし、問題の背後には対策も存在します。データの本質をしっかりと理解し、必要な部分のみを焦点にしてコーディングを行うことで、分析の質を向上させることができます。質的研究を行う上で、コードの増殖問題とその対策を知っておくことは、より効果的な分析を行うための第一歩と言えるでしょう。
[1] Saldaña J: The Coding Manual for Qualitative Researchers, Fourth Edition. SAGE Publications Ltd, 2021
利用規約 / プライバシーポリシー / 特商法表記