【入門】アクション・リサーチとは?


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アクション・リサーチとは?

 現代社会では、様々な分野で複雑な問題が発生しています。例えば、教育現場での学習意欲の低下、企業における生産性の向上、地域コミュニティでの高齢化対策など、どの分野でも解決すべき課題があります。このような問題に取り組むために、専門家たちは効果的な方法を模索しています。その中で注目されている質的研究が「アクション・リサーチ」と呼ばれる手法です。


 アクション・リサーチとは、簡単に言うと、「実践と研究を同時に行うこと」です。従来の研究では、研究者が対象を観察・分析し、得られた知見を論文などにまとめるのが一般的でした。しかし、アクション・リサーチでは、研究者自身が現場に入り込み、問題解決のために行動しながら、そのプロセスや結果を分析します。つまり、研究と実践が一体化しているのが特徴です。


 本記事では、アクション・リサーチの基本的な考え方や進め方について、初心者にもわかりやすく解説します。アクション・リサーチに興味がある方、自分の実践を改善したい方、研究と実践を結びつけたい方などに参考になれば幸いです。

アクション・リサーチの目的

 アクション・リサーチには、大きく分けて3つの目的があります。

  • 問題解決:現場で発生している具体的な問題を解決すること。
  • 知識創造:問題解決のプロセスを通じて、新しい知識や理論を生み出すこと。
  • 参加者の成長:研究に参加する関係者が、問題解決のスキルや自己理解を深めること。

 従来の研究では、知識創造が主な目的でしたが、アクション・リサーチでは、問題解決や関係者の成長も重視されます。また、研究者と関係者が協力して進めるため、お互いの専門性を活かしながら、現場に即した解決策を見出すことが期待できます。

アクション・リサーチの方法

 アクション・リサーチの方法には、さまざまなモデルがありますが、共通しているのは、非線形で再帰的なプロセスという点です。これにより、継続的な改良と適応が可能になり、関係者の進化するニーズと、調査が行われる状況に対応し続けることができます。ここでは、Mertler (2019)が示すアクション・リサーチの9のステップを参考に解説します。


ステップ1:テーマの特定と限定

 アクション・リサーチの最初の段階では、あなたが取り組みたいテーマを特定することが求められます。実践の中で改善や修正が可能な要素について考えてみましょう。調査が現実的な時間内に行えるよう、適切な範囲のテーマを選ぶことが不可欠です。


ステップ2:情報収集

 テーマを定めたら、それに関する初期情報を収集し、テーマの理解を深めるフェーズに進みます。テーマに関連する自身の経験や観察、洞察を調査するための時間を確保しましょう。


ステップ3:関連文献のレビュー

 研究を焦点化し、計画を立てるために、研究論文、書籍、ウェブサイト、ガイドライン、マニュアルなどの既存の情報源を探ります。文献レビューを実施することで、そのテーマに対する視野が広がり、理解が深まります。


ステップ4:研究計画を立てる

 十分な知識を得たら、研究計画を立てます。まず、研究の疑問と、必要であれば仮説を設定します。調査する変数を特定し、研究デザインとデータ収集方法(質的、量的、混合など)を決定します。研究の関係者を検討します。もちろん、倫理的な配慮事項にも対処します。


ステップ5:計画の実施とデータ収集

 研究計画を実行し、データを収集する段階に移ります。観察、インタビュー、調査、チェックリストなど様々な方法を使用してデータを集めます。必要に応じて、信頼性を高めるためにトリアンギュレーションを適用します。


ステップ6:データ分析

 収集したデータは、適切な方法で分析します。質的データの場合は、浮かび上がるテーマやパターンを探ります。量的データの場合は、研究の問いに対応した記述統計や推測統計を使用します。


ステップ7:行動計画の立案

 調査結果に基づいて、問題に対する解決策を実施するための戦略を立てます。これがアクション・リサーチの「アクション」の部分です。得られた知見を実践に活かすための具体的な計画を作成し、その効果を継続的にモニタリング・評価することが重要です。


ステップ8:結果の共有と伝達

 当該領域に貢献するために、アクション・リサーチの結果を共有しましょう。これは、議論を通じて非公式に行うこともできれば、学会発表や論文投稿などを通じて公式に行うこともできます。自分の知見を共有することで、他の人があなたの経験から学び、更なる研究やコラボレーションのきっかけとなり得ます。


ステップ9:プロセスを振り返る

 アクション・リサーチのプロセス全体を通じて、体系的な振り返りを行いましょう。プロジェクトの有効性を検証し、うまくいった点と改善点を考察します。これらの洞察を基に、次のアクション・リサーチサイクルに向けた修正点を決定します。アクション・リサーチは継続的な改善のプロセスであることを忘れずに。


 以上が、アクション・リサーチの9つのステップです。ただし、実際には、これらのステップが順番通りに進むわけではありません。状況に応じて、行きつ戻りつしながら、螺旋的に問題解決や知識創造を深めていくことになります。

アクション・リサーチで使えるコーディング

 アクション・リサーチは、量的データ、質的データをともに扱えます。量的データは統計を使いますが、質的データは質的データ分析を用います。質的データ分析は、質的データから意味ある知見を引き出すために、コーディングを用いることが多いです。アクション・リサーチでは、以下のようなコーディングを使用できます(Saldaña, 2021)。

  • Holistic coding
  • In Vivo coding
  • Process coding
  • Emotion coding
  • Values coding
  • Versus coding
  • Evaluation coding
  • Verval exchange coding
  • Causation coding
  • Pattern coding
  • Elaborative coding

アクション・リサーチの利点と課題

 アクション・リサーチには、以下のような利点があります。

  • 実践と研究が直結しているため、現場のニーズに即した問題解決ができる。
  • 関係者が主体的に取り組むため、自発的な行動変容を促せる。
  • 問題解決のプロセスを通じて、専門性を高めたり、人成長を促進したりできる。

 一方、以下のような課題もあります。

  • 客観性や一般化可能性に限界がある。
  • 時間と労力がかかる。
  • 組織の理解と支援が必要。

 これらの課題に対処するためには、アクション・リサーチの原則をしっかりと理解し、適切な方法で実践することが求められます。また、関係者との信頼関係を築き、継続的にコミュニケーションを取ることも重要です。

アクション・リサーチおすすめ本

 アクション・リサーチについて詳しく学びたい人には、以下の書籍がおすすめです。いずれも必読かと思っています。

まとめ

 アクション・リサーチは、実践と研究を融合させた問題解決のアプローチです。現場の問題を解決しながら、新しい知識を創造し、関係者の成長を促すことができます。課題はありますが、その可能性は大きく、様々な分野で活用が広がっています。


 アクション・リサーチに興味のある方は、まずは自分の実践を振り返ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。そして、仲間を集め、小さなアクションを起こしてみましょう。そのプロセスで、きっと新しい発見があるはずです。


 アクション・リサーチは、一人ひとりが問題解決の主体となり、よりよい社会を創っていくための方法論です。ぜひ、その可能性を探求していただければと思います。

文献

Mertler CA (2019) Action Research: Improving Schools and Empowering Educators. SAGE Publications

Saldaña J (2021) The Coding Manual for Qualitative Researchers, Fourth Edition. SAGE Publications

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